「事実」と「予測」を混同していませんか?
私たちは日常でたくさんの「思い込み」をしています。特に、子どもの頃に厳しい家庭環境で育ってきた人――いわゆるアダルトチルドレンは、現実をあるがままに見ることが難しい傾向があります。
たとえば、ある日あなたが職場でミスをしてしまったとします。その直後に上司から電話がかかってきました。
このときの「事実」はただひとつ。
「上司から電話がかかってきた」
だけです。
でも、頭の中では次のような思考が一瞬で渦巻きます。
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「あのミス、やっぱりバレたんだ」
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「怒られるかもしれない」
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「もう信用を失ったかも…」
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「同僚たちにも言いふらされたんじゃないか?」
このように、事実に対して「解釈」や「予測」がどんどん積み重なっていき、自分を追い込んでしまうのです。
でも、実際に電話に出てみたら
「来週の打ち合わせ、空いてる?」
とか、
「この前頼んだ資料、進んでる?」
なんて、まったく関係ない内容だったりしますよね。

妄想が妄想を呼び人からどんどん距離をおくようになっていました
アダルトチルドレンが現実を歪めてしまう理由
育った環境によって身についた防衛反応
アダルトチルドレンの人は、過去に「親の顔色をうかがって生きてきた」経験が多くあります。怒鳴られないように、責められないように、いつも先回りして「何か悪いことが起きるのではないか」と考えるクセがついてしまっているのです。
これは一種の防衛反応。子ども時代の自分を守るためには必要だったサバイバル術だったのです。
でも、大人になってからもそのクセが抜けず、「今ここにある事実」ではなく「起こるかもしれない悪い未来」にばかり意識が向いてしまう。
その結果、自分を必要以上に責めたり、萎縮したりしてしまうのです。
スキーマ(認知の枠組み)が影響している
心理学では、このような「思考のクセ」のことをスキーマと呼びます。
スキーマとは、過去の経験から形成された「世界はこういうものだ」「私はこういう存在だ」という認知の枠組みのこと。
たとえば、子どもの頃に親から「お前はダメなやつだ」と言われ続けた人は、
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「私は失敗する人間だ」
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「私は価値がない」
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「人は私を責めるものだ」
というスキーマを無意識のうちに抱えています。
このスキーマがあると、どんな出来事も「やっぱり自分はダメだ」と解釈してしまうのです。これが、事実を歪めて見てしまう根本原因です。
あるある!日常でありがちな「歪んだ認知」
ちょっとここで、アダルトチルドレンの人がよくしてしまう「思考の歪み(認知のゆがみ)」をいくつか紹介します。
結論の飛躍
- 特徴: 根拠が不十分なのに、否定的な結論を性急に下してしまう思考パターンです。
- ACの方の場合: 幼少期の不安定な家庭環境や、親の感情の起伏に翻弄された経験から、「また同じことが起こるのではないか」「自分は常に悪い結果を引き起こすのではないか」という不安が根底にあります。そのため、客観的な状況証拠がないにもかかわらず、「絶対怒られる」「どうせ嫌われている」といったネガティブな結論を 導き出してしまうことがあります。これは、過去のトラウマ的な経験から身を守ろうとする心理的な反応とも言えます。
全か無か思考(白黒思考)
- 特徴: 物事を極端な二つのカテゴリーでしか捉えられない思考パターンです。グレーゾーンや中間的な視点を持つことが難しいのが特徴です。
- ACの方の場合: 親の厳しい評価や、完璧主義的な требования の下で育った経験があると、「完璧にできなければ価値がない」「少しでも失敗したらすべてが台無しだ」といった極端な思考に陥りやすくなります。そのため、小さなミスや欠点を過度に大きく捉え、「自分はダメな人間だ」と全否定してしまうことがあります。自己肯定感が低いことも、この思考を強化する要因となります。
自己関連づけ
- 特徴: 周囲の出来事や他者の言動と自分自身を不必要に関連付けてしまう思考パターンです。
- ACの方の場合: 幼少期に親の感情や行動に過剰に責任を感じて育った経験から、「周囲の機嫌は自分のせいだ」という思考パターンが強く根付いていることがあります。そのため、誰かが機嫌悪そうにしていると、客観的な理由がないにもかかわらず、「自分が何か悪いことをしたのかも」と思い込んでしまいます。これは、常に周囲の顔色を窺い、自分の行動が他者にどのような影響を与えるかを過度に気にするAC特有の傾向と言えるでしょう。
……心当たり、ありますか?
大丈夫、これ、アダルトチルドレンにとっては「あるある」なんです。むしろ、自分がこういう思考のクセをしてしまうことに気づけるだけでも大きな一歩です。
「事実」と「予測」を分けるだけで心がラクになる
さて、ここからが本題です。
アダルトチルドレンの人が生きやすくなるには、「思い込み」と「現実」とを切り分けて考えるクセをつけることがとても大切です。
そのための第一歩は、
「これは事実?それとも予測?」
と自分に問いかけること。
たとえば上司から電話が来たとき、
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事実:「上司から電話が来た」
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予測:「怒られるかもしれない」
と分けてみる。
こうして一度立ち止まるだけで、感情に飲み込まれることが少なくなります。
思考を止めて、行動するという選択
思い込みで悩んでいる時間って、すごく消耗しますよね。
「どうしよう…」
「あー、怖いな…」
と、頭の中だけでグルグルしていると、どんどん不安が大きくなっていきます。
でも、それってほとんどが「予測」にすぎない。
だからもう、思い切って「先に行動」してしまったほうが楽だったりするんです。
「怒られるかな?」と考える前に、電話に出てしまう。
「嫌われてるかも」と考える前に、挨拶だけしてみる。
意外と、世界ってそんなに敵ばかりじゃないなって思えたりします。
完璧を目指さなくていい。「気づく」だけで大丈夫
「事実を歪めて見ているかも」と気づけるようになったとしても、最初はなかなかそのクセが抜けないかもしれません。
でも、大丈夫。
完璧にできなくていいんです。
大事なのは、「また思い込みにとらわれてたな」と後からでも気づけること。
それだけでも、少しずつ心は軽くなっていきます。
最後に
アダルトチルドレンの多くは、過去の体験から「現実をあるがままに受け取る」ことがとても難しいものです。だからこそ、まずは「事実」と「思い込み」を分けること。予測で自分を苦しめず、ほんの少しでも現実に目を向けてみること。
それだけで、日常のストレスや不安はだいぶ減ります。
もし、あなたが今「いつもネガティブに考えてしまう」と感じているなら、まずはそのクセに気づいてあげてください。無理に変えようとしなくても、「気づく」ことが癒しの第一歩になります。
そして、「自分はダメなんかじゃない」と、少しずつでも信じていけたら──きっと、もっと生きやすくなっていきますよ。