「どうしてこんな感情になるんだろう…」「この気持ち、認めたくない」。
そう感じて、自分の感情にフタをしてしまうことはありませんか?
もしあなたが、感情を表に出すことに抵抗を感じたり、自分の感情をうまく扱えずに苦しんでいるなら、それはもしかしたらアダルトチルドレンと呼ばれる特性が関係しているのかもしれません。
この記事では、アダルトチルドレンがなぜ感情を受け入れるのが苦手なのか、その心理的背景を深く掘り下げ、ありのままの感情を受け入れることで、より楽に生きられるようになる具体的な方法をお伝えします。
なぜ、感情を受け入れるのが苦手になるのか?
なぜアダルトチルドレンは、自分の感情をあるがままに受け入れることが難しいのでしょうか。そこには、幼少期の経験によって形成された、根深い心理的なメカニズムが隠されています。
感情の否定と抑圧:幼少期の「感情はNG」というメッセージ
アダルトチルドレンの多くは、幼少期に自分の感情を自由に表現することを許されなかった経験を持っています。
例えば、悲しい時に泣くことを「泣くんじゃない!」と咎められたり、怒りを感じた時に「そんな感情を持つのは悪いことだ」と叱られたりしたことはありませんか?
また、親が感情的に不安定だったり、常に感情を抑圧している姿を見て育ったりした場合、子どもは無意識のうちに「感情を表に出すことは危険だ」「感情を持つことは悪いことだ」と学習してしまいます。
このような環境で育つと、子どもは自分の感情を「不適切なもの」「表現してはいけないもの」と認識し、無意識のうちに感情を抑圧するようになります。
これは、心理学における**感情の回避(Emotional Avoidance)**と呼ばれる現象に繋がります。感情を感じること自体が苦痛であるため、その感情から目を背けたり、感じないように努めたりするのです。
特に、怒りや悲しみといったネガティブな感情だけでなく、喜びや楽しみといったポジティブな感情でさえも、過度に表現することを抑制されてきたアダルトチルドレンも少なくありません。
その結果、感情そのものに「良い」「悪い」のレッテルを貼ってしまい、自分の内側で起こる自然な感情の動きを否定する癖がついてしまうのです。
完璧主義と自己批判:「こうあるべき」という固定観念
アダルトチルドレンは、しばしば完璧主義の傾向を持っています。これは、幼少期に親からの過度な期待に応えようとしたり、批判を避けるために常に完璧を目指したりした経験からくるものです。
この完璧主義は、感情の受け入れにも影響を及ぼします。
例えば、「不安を感じるなんて弱い人間だ」「いつも明るくポジティブでいなければならない」といった「こうあるべき」という固定観念に囚われがちです。
自分が感じる感情が、この「完璧な自分」のイメージから外れると、その感情を否定したり、なかったことにしようとしたりします。
この自己批判の強さは、自分の感情に対する否定的な評価に繋がり、感情を受け入れることを一層困難にします。
感情は自然に湧き上がってくるものであり、コントロールできるものではありません。
しかし、アダルトチルドレンは、感情をコントロールしようと必死になり、それができない自分を責めてしまうのです。この自己批判のループが、感情の抑圧をさらに強めてしまう原因となります。
境界線の曖昧さ:他者の感情に振り回される
アダルトチルドレンは、しばしば自己と他者の境界線が曖昧になる傾向があります。
これは、幼少期に親の感情やニーズを優先させなければならなかった経験から、他者の感情に過度に敏感になり、自分の感情よりも他者の感情を優先してしまう癖がついてしまうためです。
他者の感情に強く影響されると、自分の感情が何なのかが分からなくなったり、他者の感情と自分の感情が混同してしまったりすることがあります。
例えば、誰かが怒っていると、自分が怒っているわけではないのに、その怒りの感情に引きずられてしまったり、自分が何か悪いことをしたのではないかと罪悪感を感じたりすることがあります。
このような状態では、自分の感情を客観的に認識し、あるがままに受け入れることが非常に困難になります。
自分の感情が何なのかが分からないまま、他者の感情に振り回され、結果として自分の心の声に耳を傾けることができなくなってしまうのです。この境界線の曖昧さは、アダルトチルドレンが感情の混乱を経験しやすい原因の一つと言えるでしょう。
感情をあるがまま受け入れて「行動」に全集中する
自分の感情をあるがまま受け入れることは、不安や恐れの感情を消すために非常に有効です。
なぜなら、不安や恐れは消そうとすればするほど大きくなっていく性質を持っているからです。無理に不安や恐れの感情を消そうと執着しても、反対に大きくなってしまいます。
「人と話すのが怖い」って感情に執着するほど、余計に人が怖くなっていました。にもかかわらず、「怖いと思ってはダメだ」って我慢して人と話していたんです。
涙ぐましい努力だと思いませんか?
けれども、いくら「怖いと思うのはダメだ」と思っても、怖いという感情は消えることなく、ずっと自分の中に存在し続けたんです。
心理療法で使われる森田療法では、「感情はあるがままにしておく」ことをすすめています。
怖かったり、不安だったりする感情はあるがまま感じていいんです。また、不安な気持ちをどうにかしたいという気持ちも、あるがままにしておきます。
自分の感情を操作しようとするのではなく、あるがままそのままにしておくのです。
そして、感情をあるがままにしておいて、意識を別のところへ向けるようにします。感情をあるがまま感じて、意識は自分の目的を達成することに全集中する。
これが森田療法でいう「目的本位の生き方」です。
例えば、人が怖くて話しかけることができないとします。
この時に「人が怖い」という感情はあるがままそのままにしておきます。無理に「怖い」という感情を感じないでおこうとすると、よけいに怖くなってしまうからです。
「人が怖い」という感情をあるがまま受け入れて、人に話しかけるという目的を達成することに意識を集中させます。
怖いと思いながら「おはよう」と言えれば、それで合格です。人に話しかけるという目的に向けて、怖いと感じながらも行動ができればそれでいいのです。
このときに、うまく話せたか、おどおどしていなかったかなどのプロセスは意識する必要はありません。人に話しかけるという目的が達成できたことのみに意識を集中させます。
これを続けていると、感情に振り回されずに、目的に沿った生き方ができるようになります。僕も人が怖いと思うときは、怖いという感情に意識を向けずに目的だけに意識を集中するようにしました。
よくやっていたのが、
- 相手の話していることに意識を集中する
- 自分が話すときは気持ちを込めて話すことに集中する
ということでした。
もちろん怖いと思いながら会話をしていましたが、結果的に怖いという気持ちが薄れていき、ちゃんと会話できるようになっていきました。人が怖いと思っていても、きちんと目的を定めて行動すればコミュニケーションは成り立ちます。
まずは、
- 自分の感情をあるがまま受け入れること
- 自分の目的を達成するための行動に集中すること
を試してみてください。
自分の感情を受け入れることができるようになっていくのに気づくはずです。これは、アダルトチルドレンが抱えがちな感情の麻痺や抑圧から解放されるための、非常に有効なアプローチです。
偽りの自分ではなく、あるがままの自分を受け入れよう
あるがままの自分を受け入れていないのは、日々自分を偽って生きているようなものです。他人には嘘をついていないかもしれませんが、一番大切な自分に嘘をついています。
自分を偽りながら生き続けていると、偽りの自分が本当の自分のように錯覚してしまいます。どこかで嘘をつくことをやめないと、偽りの自分のまま生きていくことになってしまうのです。
アダルトチルドレンの中には、この「偽りの自分」で生きることに慣れすぎてしまい、本当の自分が何を感じ、何を望んでいるのかが分からなくなっている人も少なくありません。
本当の自分を受け入れたいのに、
- 世間がどう思うか
- 家族がどう思うか
- 会社がどう思うか
- 友人がどう思うか
を優先してしまい、自分を押し殺して生きてしまいます。
こうして自分を受け入れずに生きていると、最初のうちはどうにか取り繕うことができるけれど、だんだんと生きていくのが苦しくなってしまうのです。
これは、心理学における**不一致(Incongruence)**の状態であり、自己概念と経験との間にズレが生じ、精神的な不調和を引き起こします。
自分に正直に生きようとすると、他人から嫌われてしまうこともあります。けれども、自分を受け入れずに他人と付き合っていても、それは偽りの関係が続いているだけですから、いつかその関係は崩れ去ってしまいます。
遅かれ早かれ関係が崩れるのなら、自分を受け入れて正直に生きたほうがよほどましです。
自分の人生ではなく他人の人生を生きているとするならば、このままの延長線上で生きていって、本当に自分は満足のいく人生を送ることは難しいでしょう。
我慢しながら生きることを選択するよりも、あるがままの自分は本当は何をしたいのかを自分としっかりと向き合って言葉にするのです。他人の視点や世間の評判をとりあえずシャットダウンしてみて、
- 自分は本当は何がしたいのか
- 自分は本当はどう思っているのか
- 自分は本当はどう生きたいのか
あるがままの自分を見つめてみましょう。
社会が望む自分を生きるのではなく、自分が望む自分を生きるべく、ちゃんと心の声に耳を傾けてみることが大切なのです。このプロセスは、アダルトチルドレンが健全な自己を取り戻すための、非常に重要なステップです。
感情を受け入れることは自分を信頼すること
感情をあるがまま受け入れることは、単に感情を放置することではありません。それは、自分の内側で起こるあらゆる感情の動きを「自分の一部」として認識し、それを肯定的に受け入れることです
。悲しみ、怒り、不安、恐怖といった感情は、決して「悪いもの」ではありません。むしろ、それらの感情は、私たちに何かを伝えようとしているメッセージであり、自分自身を理解するための重要な手がかりとなります。
例えば、不安を感じるとき、その不安は「危険が迫っているかもしれない」「準備が足りないかもしれない」といった、私たちを守るためのシグナルであることがあります。怒りを感じるときは、「自分の境界が侵害された」「不公平な扱いを受けた」といった、自己防衛のためのメッセージであることもあります。
これらの感情を否定したり抑圧したりすることは、自分自身の内なる声に耳を塞ぐことと同じです。
アダルトチルドレンが感情を受け入れるのが苦手な背景には、幼少期に感情を表現すると叱られたり、無視されたりといった経験から、「感情は危険だ」「感情を出すと嫌われる」といった学習が深く根付いていることがあります。
しかし、大人になった今、あなたが安全な環境で自分の感情を感じ、それを表現することは、過去の傷を癒し、自分自身との信頼関係を再構築するプロセスでもあります。
感情を受け入れる練習は、自己への信頼を育むことに繋がります。自分の感情を否定せずに受け入れることで、「どんな感情が湧いてきても、自分は大丈夫だ」という感覚が育まれます。
これは、**自己受容(Self-Acceptance)**の基礎となり、生きづらさを解消する上で不可欠な要素です。
最後に
自分の感情をあるがまま受け入れることは、一見すると難しい挑戦のように思えるかもしれません。
特に、長年感情を抑え込んできたアダルトチルドレンの方にとっては、そのプロセスは時に痛みや混乱を伴うこともあります。
しかし、感情を感じること、それを受け入れることは、あなた自身を深く理解し、自己を肯定するための最も重要なステップです。
不安や恐怖といった感情は、消そうとすればするほど大きくなる性質を持っています。
森田療法が示すように、感情をあるがままにしておき、あなたの意識を「目的」に集中させることで、感情に振り回されることなく、具体的な行動を起こすことができるようになります。
そして、自分の内にある「偽り」の自分を手放し、世間や他者の期待ではなく、あなたが本当に望む生き方、あなたが本当は何を感じているのかに耳を傾ける勇気を持つことが、真の心の軽さへと繋がります。
感情はあなたの敵ではありません。
それは、あなた自身の内なる声であり、あなたを守り、導くための大切なシグナルです。
自分の感情を信頼し、あるがままに受け入れることで、あなたはこれまで感じたことのない心の自由と、楽に生きる喜びを手に入れることができるでしょう。
さあ、今日からあなたの感情と向き合い、本当のあなた自身を生きるための一歩を踏み出してみませんか。